【イベントレポート】第19回ビジネスマッチング部会「CVC特集」
第19回ビジネスマッチング部会が開催されました。今回はCVC特集と題し、各社10分前後でプレゼンテーションをいただいた後は、20分間のパネルディスカッションを実施しました。オンライン参加も可能ですが、原則としてリアルな参加者の声を優先しています。
イベントの一部をご紹介いたします。
第1部 各社プレゼンテーション
日鉄興和不動産株式会社 稲垣様
日鉄興和不動産は、「人と向き合い、街をつくる」のミッションの下、お客さまやビジネスパートナーとの繋がりや対話を重視し、街づくりを行っている会社です。弊社のCVC活動は、他の一般的な形態と異なり、自社のバランスシートを活用し、スタートアップ企業に直接出資を行うというものです。
「不動産会社の新たなかたちをみんなで探そう!」と2020年3月に戦略投資枠を設定し、戦略的リターンを狙ったスタートアップ向け投資をスタートしました。当時は、私が経営企画部長を兼任しながら、当時弊社社員であった現在のGOGEN社長の和田さんと二人で、更にコロナ禍の緊急事態宣言下、まさに右も左もわからない中での手探りでのスタートでした。これまでの投資実績としてはiYell社はじめスタートアップ6社、ベンチャーキャピタル3社(4ファンド)となりますが、4年間の活動を通じて、スタートアップ、ビジネスパートナーとの繋がりから、本当に多くのことを学ばせて頂きました。今回、この中で特に戦略的な狙いを持った2つの事例をご紹介します。
1社目が住宅ローンテックのiYell社です。2020年に窪田社長との対話を通じて、住宅ローンの「借りやすさ」が不動産価値に影響するということを学びました。特に、日鉄興和不動産では単身者向けのコンパクトマンションを得意としておりますが、専有面積の狭いマンションは一般的な実需向けの住宅ローンが借りにくい傾向にあります。「借りやすい」は「買いやすい」となり、「買いやすい」はすなわち「不動産の資産価値を上げる」そんな思いで窪田社長と意気投合し、投資に至ったということです。
2社目がSTYLY社です。XR技術を用いて、現実空間にバーチャルコンテンツを融合させる世界的にも先進的なプラットフォームを提供しています。現実空間(不動産)に新たな価値が創造されることになります。先日アップルがアップルビジョンを発売しましたが、山口社長がいうところの「空間を身にまとう生活」が日常になる未来は、不動産の価値を構成する要素も変わってくることになると思います。STYLY社との具体的な協業として、品川インターシティにおいて、ビルの合間で「海中散歩」を体験頂く、「品川XRアクアガーデン」というイベントを開催させて頂きました。
最後に、CVC活動においてよく議論になる「戦略的リターン」と「財務的リターン」どちらを重視するかについてコメントさせて頂きます。弊社のCVC活動も純投ではなく「戦略的リターン」を狙ったものでありますが、兎角、戦略的リターンに拘るあまり、例えば、同業他社との協業を抑制するとか、廉価でのサービス提供を求める等、スタートアップの成長を阻害しかねない意見が、社内からでてくることがよくありますが、そういった協業案に対してはNOと申し上げています。スタートアップの自由な成長を促すことを常に軸に据えながら、CVC活動をこれからも推進していきたいと考えております。
東急不動産ホールディングス 月足様
東急不動産は1953年に設立され、2013年にホールディングス化し、不動産関連事業を展開しています。主に不動産の開発、管理運営、流通を手がけ、近年は再生可能エネルギー事業にも力を入れており、リゾート施設含めて全国各地に事業を展開しています。イノベーション戦略部門では、既存事業の変革や新規事業の創造に取り組んでおり、CVCもその一環として位置付けられています。また、事業連携やスタートアップ支援、社内の新規事業提案制度や社内向けのイベント・研修にも取り組んでいます。
CVCでは2017年に50億円規模のファンドを立ち上げ、現在までに36社に出資しています。不動産関連の他、教育サービスや健康コンテンツなど幅広い分野への出資を行っています。外部パートナーとの連携により年間500社ほどのスタートアップとの接触をしております。私たちはこれらの企業を各部署やグループ会社に紹介し事業連携を模索しています。この接触した500社を適切な部署・会社に繋げることで事業連携を促進するために3つの活動を行っております。
- ①イベント主催:最新トレンドをテーマにしたイベントや出資先のピッチイベントを開催し、風土醸成に取り組んでいます。参加者にスタートアップとの連携の意義を理解してもらうための取り組みです。
- ➁メーリングリストの配信: 登録制のメーリスで定期的に情報を発信し、スタートアップや関連イベントを紹介しています。これにより、我々の活動を広く周知させ、各部署やグループ会社との連携を促進しています。
- ➂ヒアリング: 各事業部門やグループ会社との定期的なヒアリングを通じて、ニーズに合ったスタートアップの紹介や連携活動を行っています。現在の事業課題やスタートアップとの連携状況を把握し、今後の活動に活かしています。
以上の取り組みを通じて、我々は事業連携の実績を積みながら、企業との連携を強化し、新たなビジネスの可能性を追求しています。
最後に、オープンイノベーションの事例を紹介します。トライエッティング社はAIを活用した需要予測や在庫管理を行っている会社で、東急リゾーツ&ステイのシフト作成を効率化しました。次に、HashPort社はNFTを活用し、スキーの初滑りの権利をNFT化して販売しました。さらに、ライフログ・テクノロジー社はカロミルアプリを使って健康増進の効果検証を行い、社内で健康促進イベントを展開しました。大企業との連携についても取り組んでおり、ENEOS社との連携では、不動産会社の持つ資源を活用してSAFの原料となる廃食油の調達先として連携しています。これらの取り組みを通じて、既存事業の変革や新規事業の創造に取り組んでいます。
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大東建託株式会社 遠藤様
私は、大東建託株式会社のイノベーションリーダー、遠藤と申します。中途で前職にてメガベンチャーの新規事業部門に所属した後、大東建託に参画し、新規事業開発に携わっています。
当社は、アパートの建設および不動産管理、入居斡旋からご入居者の皆様に対するサービス提供まで一気通貫で行っており、当社グループの売上高は約1.7兆円に達しております。また、管理戸数は現在124万戸を数え日本一位の実績で、ご入居者数様は約220万人に上ります。これは、例えるならば新潟県や名古屋市と同程度の人口規模に相当します。そうした本業の傍ら、積極的に新規事業にも取り組んでおり、オープンイノベーションという形で、新しい取り組みを進めています。例えば、124万戸の管理戸数と220万人のご入居様がおり、その関係を活かした新しいサービスの提供を目指しています。具体的には、建設・施工・管理のデジタルイノベーションを推進しています。
スタートアップ様と協業する上で、私たちが重視していることは、投資の目的を明確に定義し進める事と迅速な意思決定に行うことで、日々環境が変化するスタートアップに伴走できる体制を目指しています。
第2部 パネルディスカッション
来場された方からの質問に答えていただきました。
Q.リターン重視かシナジー重視か
稲垣氏)当社では意見が分かれていますが、あえて、どちらか一方と言われれば、私はリターン重視の立場をとっています。重視すべきはスタートアップの成長だと思います。出資者が自社のシナジーに拘ることで、スタートアップの自由な成長を阻害することはあってはいけない。自由な成長を促すことで、結果的に投資家もリターンを得る。リターンを追求する中では、スタートアップがピボットすることも否定しない。むしろ、そのスタートアップの変化に対応し、我々自身が吸収できる要素を探求していく柔軟な姿勢がCVC活動においては必要であると考えます。
月足氏)私個人としては、シナジーが重要だと思っています。というのも、リターンが出るか全くわからないところがあるからです。やはり不動産業界としては、本業の方が、収益性が高いと言われてしまうと、それ以上でも以下でもないと感じます。ではなぜやっているのか、と考えた時に、スタートアップが生み出したシナジーが本業にしっかりと還元され、本業の売り上げがしっかりと伸びている、という説明が一番納得できました。シナジーを生み出すことが、最終的な本業のリターンに繋がってくると思います。
遠藤氏)会社としては戦略的なリターンを重視しています。弊社はアパート経営を行っており、人口減少が需要に直接的な影響を及ぼす事が想定されており、そうした時代の到来を見据えて、染み出しの領域や新たな領域への探索を目的としてスタートアップ様との協業を行っております。
Q.気になる不動産テック
稲垣氏)不動産テックではないのですが、これまで取り組んでこれなかった「教育」や「農業」分野については何か協業ができないか検討しています。「農業」については、例えば製鉄所由来の土地の有効活用の手段として、地域活性化とサステナブルでグリーンな土地活用という協業の可能性がないかと考えております。また、「教育」については、「お客様の人生をもっと豊かにデザインする」というブランドコンセプトの下、「マンション」×「教育」とか、「オフィス」×「人材育成」という観点で新しいサービスや付加価値提供ができないかというようなことも検討しております。
遠藤氏)テック以外の領域も含めてですが、私たちの主要な事業であるアパートの請負増加のストーリーを描けるような企業との協業や投資を検討しています。たとえば、世帯年収の高い顧客を抑えているサービスや、相続案件を取り扱っている企業などに興味を持っています。また、もう一つの重要なポイントは、人手不足により受注案件の施工に時間がかかるといった問題発生していることに対して解決策となる領域です。例えばDXを活用して建築や設計を効率化する方法を模索しています。スムーズな業務遂行が可能な技術をお持ちのスタートアップ様とタッグを組みグループの売り上げ利益を最大化できることができればと考えています。
Q.何を持って出資失敗としていますか
月足氏) 案件が全く動かなくなったときでしょうか。事業会社とシナジーを生み出すために、担当者として様々な出資先の紹介や、ピボットをした時に、どう繋がるか考えながら、出資先と熱心に事業連携の支援を行っていきます。これが私たちのミッションであり、最終的な目標を達成するために最も近い方法だと思います。もちろん難しい場合もありますが、それでも動かなくなったら、何も生み出せなくなるんじゃないかと思います。例えば、社内の新規事業提案制度の話も出ましたが、社員が新規事業をやりたいと思った時に、CVCの出資先を紹介すると、うまくいく連携があるかもしれません。可能性は眠っていると思います。しかし動かなくなったら、失敗と言われても仕方ないと個人的には思います。
遠藤氏)私は出資の失敗はないと考えています。個人的な哲学的な側面も含めてですね。例えば、判断的に言うと、出資を行った際には株価への影響やPR面の貢献、そして戦略やファイナンスの観点から考えるなど多くの要素が影響として出てくると思っています。直接的なシナジーによって生み出そうとしていた価値は実現できないような場合もありますが、そうしたシナジーを目指した新しい取り組みへの姿勢から、新たな資金が海外から注入されたりといったバリューアップが見込めるのであれば、出資が失敗とは言い切れないと思っており、どの軸で出資を評価するかという観点が重要ですが、基本的にはどこかでは成功といえる成果はあると信念をもっております。
Q.担当していて楽しいと思う瞬間
遠藤氏)こういう事業をやりたいなとか、素晴らしいなと思っていたスタートアップ様と協業できる体験は本当に楽しいです。
月足氏)出資先からの依頼や、実現したいことが実現できたとき、また事業部からのニーズに応えるパートナーを見つけて連携がうまくいったとき、相手が喜んでいる姿を見るのが一番嬉しいです。
稲垣氏)社内で反対されていた投資案件をひっくり返して社内決裁までこぎつけた時、出資先スタートアップの社長から「あの時の貴社の出資があったおかげでここまで大きくなれた」と感謝された時は、気持ちが高ぶります。
ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
次回のイベントは4月11日開催の【リビングテック特集】です。
皆さまのご参加お待ちしております。