【イベントレポート】第27回ビジネスマッチング部会「不動産CVCナイト」
第27回ビジネスマッチング部会が開催されました。今回は不動産CVCナイトと題し、基調講演及び各社10分前後でプレゼンテーションをいただいた後は、20分間のパネルディスカッションを実施しました。オンライン参加も可能ですが、原則としてリアルな参加者の声を優先しています。
イベントの一部をご紹介いたします。
基調講演
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 小池様
今回は、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の目的や市場動向、投資の課題について解説し、今後の展望を考察します。
CVCの目的は、「戦略リターン」と「財務リターン」の2つに分類されます。海外ではこの2つをバランスよく重視する傾向がある一方、日本では戦略リターンを優先するケースが多いのが特徴です。
近年、スタートアップの資金調達額は減少傾向にあり、2021年から2022年にかけて特に顕著な落ち込みが見られました。2024年も引き続き厳しい状況が続くと予測されていますが、CVCに特化した投資は、2023年よりも若干回復する可能性があると考えられています。国内のCVC投資額は一定の水準を維持していますが、一件あたりの投資額は減少傾向にあり、分散投資が進んでいる状況です。
「リアルエステート テクノロジー(不動産テック)」領域のグローバル市場では投資規模、件数ともに2021年にピークを迎え、その後減少傾向にあります。日本市場に関しては、グローバルよりもやや遅れて成長しており、2016年〜2017年頃はまだ市場認知が低い状況でした。しかし、2022年以降急速に注目が集まっており、投資が拡大しているのが特徴です。
リアルエステートテクノロジー領域における分野別の投資状況では、「BtoCのリアルエステートサービス」の領域が、グローバル市場で最も取引額・トラフィックが多く、生産性向上に関わる技術が中心です。日本市場でも同様に、業務効率化を目的としたソフトウェアが注目されています。
市場規模に関しては、日本とグローバルを比較すると、大きな差はないものの、グローバルの方がやや規模が大きい傾向にあります。特に2024年以降は日本市場の成長が加速し、投資額の増加が見込まれています。
海外大手不動産会社のCVC投資を見ると、Blookfield社やSIMON社などは、インフラ領域、商業領域などにおいて特徴あるテーマを設定して、Exitsも成功させつつ株価も伸ばしている様子が見えるため、テーマ設定の重要性が垣間見えます。最後に、市場の課題として、
- グローバル企業との比較で日本企業のプレゼンスが低い
- 事業部門間のコミュニケーション不足
- 投資期間が短く、大規模インフラ投資が難しい
といった点が挙げられます。結果として、投資先の特徴が出にくい、市場への影響が限定的であることが、日本市場の課題の一つと言えます。 今後は、より独自性のある投資戦略が求められると考えられます。
第1部 各社プレゼンテーション
MytePro Technology Japan株式会社 大島様
MytePro Technology Japan株式会社は、日本国内で不動産テックの分野において事業を展開し、不動産業界のDXに積極的に取り組んでいます。設立から27年にわたり事業を継続し、現在では約2,000名の従業員を抱える企業です。不動産業界において、建物の建設から販売、管理に至るまで幅広い領域をカバーしていますが、特にデジタル技術を活用したサービスの開発と提供に注力しています。
日本国内では不動産のVR化が進んでいますが、当社では単に建物を3Dデータ化するのではなく、街全体をデジタル化し、その価値を可視化する取り組みを推進しています。このプロジェクトでは、ドローンを活用して実際の街並みを高精度でデータ化し、投資家や購入希望者にリアルな情報を提供します。これにより、物件の価値評価がより精密になり、購入の意思決定を支援することが可能になります。
不動産営業の分野でもデジタル技術を積極的に活用しており、営業担当者が装着する「スマートバッジ」は、顧客が来店した際にその情報を自動的に取得し、適切な物件を提案できるようサポートします。このシステムは、顧客との会話をリアルタイムで分析し、過去のデータと照らし合わせながら最適な物件をAIが提示する仕組みになっています。さらに、商談内容の自動記録機能を備えており、営業の効率向上にも貢献します。
インバウンド需要の増加に伴い、外国人投資家や移住希望者向けに、日本の不動産情報を各国のSNSと連携させるプラットフォームの開発も進めています。このプラットフォームでは、AIによる自動翻訳機能を活用し、外国人が母国語で物件情報を閲覧し、スムーズに取引を進められる環境を整えています。
当社は、これらの先進技術を通じて不動産業界のDXを推進し、より利便性の高いサービスを提供することを目指しています。今後も多くの企業やパートナーと協力し、新しいプロジェクトの開発を進めていく予定です。また、製品の開発・販売にとどまらず、先進的な技術を持つスタートアップへの投資活動も積極的に行い、不動産業界のさらなる発展に寄与していきます。
野村不動産ホールディングス株式会社 榎本様
野村不動産ホールディングス株式会社は、主に不動産開発による価値創造を行うデベロップメント分野と、不動産関連サービスの提供による価値創造を行うサービス・マネジメント分野の2分野(計6部門)で事業を構成しており、近年教育や舟運など、多様な分野にも進出しています。こうした事業領域に関連する企業との協業を積極的に推進し、新たな価値の創出を目指しています。
同社が掲げる2030年ビジョン「まだ見ぬ、Life&Time Developerへ」は、不動産の開発や管理にとどまらず、暮らしや働き方、買い物、スポーツといった生活全般にわたり価値を提供することを目的としています。その実現には、デジタル技術を活用した業界全体のDXを推進することが不可欠です。
物流分野では、多様なソリューションを持つ企業と連携し、物流の効率化やDXの実証実験を行っており、例えば荷主や物流事業者が柔軟に倉庫スペースを活用できる仕組みを構築しています。さらに、IHIさんの立体自動倉庫を導入し、効率化を進めています。企業は最大量に合わせてスペースを確保する必要があり、無駄が生じやすいですが、自動倉庫により最適化し、レンタル型の自動機器導入でより柔軟な運用も可能になります。
当社のベンチャー企業との協業には2つの形があります。
1つ目は、資本提携を行わずに、優れたサービスやアイデアを持つ企業と協力しながら新しい取り組みを進める形です。このモデルでは、単にサービスを利用するだけでなく、共同で新しい製品やサービスを生み出し、磨き上げていくプロセスを重視しています。
2つ目は、戦略的に資本提携を行うケースです。当社は、単に1~2%の株式を持つだけの関係ではなく、長期的な成長を見据えた投資を行います。投資の判断基準としては、IRR(内部収益率)や出口戦略にとらわれるのではなく、「本当に資本提携する価値があるか」を重視しています。
本日のメッセージとして、まず皆さんにお伝えしたいのは、「協業を進めましょう」ということです。皆さんの持つアイデアや技術と、当社の取り組みを掛け合わせることで、新しい価値を創出できると考えています。当社は多岐にわたる事業を展開しており、それぞれの分野で最適な形で協力できるようにしたいと思っています。
東急不動産ホールディングス株式会社 月足様
東急不動産ホールディングス株式会社は2013年に設立され、グループCXイノベーション推進部では、不動産業界において新たな価値を提供することを目指し、従来の不動産ビジネスの枠を超えたイノベーションの推進に取り組んでいます。
グループCXイノベーション推進部の主な役割は、既存事業の変革と新規事業の創出です。そのため、事業連携、CVC活動、インキュベーション支援を行い、スタートアップ企業との協業を促進しています。特にCVCでは、単なる投資ではなく、事業連携を重視し、中長期目線でのグループシナジーを生み出すことが目的です。
2017年に設立した第1号ファンド(50億円規模)では、既存事業の深化・渋谷の街づくりに貢献する企業への投資を重点的に行い、37社に出資しました。投資対象は幅広く、不動産領域だけでなく、メタバースやNFTなどの先進技術にも積極的に投資を行っています。具体的な事例として、DXコンサル企業のアルサーガとの提携により、AIを活用したSNS投稿の自動化を実現し、業務効率化を推進しました。また、アクアビットスパイラルズ社と共同で、街での人の動きをデータ化しマーケティング戦略に活用するプロジェクトを進めています。さらに、ネイチャーイノベーショングループと連携し、環境貢献活動にも取り組んでいます。
2025年からは、新たに第2号ファンド(50億円規模)を立ち上げ、都市間競争力の強化や地方の観光資源活用を軸とした投資を進めています。特に、長期ビジョンで掲げる環境経営・DXの推進や、グループシナジーを活かした新しいビジネスモデルの創出に力を入れており、持続可能な都市づくりを目指します。この新たなファンドでは、従来の投資対象に加え、国際的な都市環境の競争力向上や、地方の観光・産業資源の活用を視野に入れています。例えば、都市の環境をどのように改善し、世界中の主要都市と比較して競争力を持たせるか、また地方の観光資源や産業をどのように成長させてエリア全体を活性化させるかといった視点での投資を行っています。
最終的な目標は、スタートアップ企業とのWin-Winな関係を築き、新規事業の共同開発を実現することです。単なる出資ではなく、事業連携を通じて価値を共創し持続可能なビジネスモデルを構築することが求められています。
第2部 パネルディスカッション
−最近注目している投資テーマはなんですか?
月足氏)
個人的にアートの分野にも関心を持っています。国際的な都市間競争力を強化するためには、その都市が持つ文化的価値や評価が非常に重要になります。都市の魅力を高めるうえで、アートの要素が果たす役割は大きく、都市開発の一環として積極的に取り入れるべきだと考えています。
榎本氏)
私たちは投資を行うだけでなく、社内の若手メンバーを集め「我々がイノベーションをどのように推進できるか」を模索する取り組みを進めています。その中で話題に上がるのは、エネルギー、エンターテインメント、旅行など、多岐にわたる分野です。また、近年の不動産市場では住宅価格が高騰しているため、金融技術を活用してこの課題を解決できないかという視点も重要になっています。これらの課題に対し、柔軟なアプローチを取りながら、新しいビジネスモデルを模索していきたいと考えています。
大島氏)
特定の業界に限定した横展開は少ないものの、不動産分野での可能性を重視しています。単に資金を投じるのではなく、「自社の事業とどのようにソフトウェアを連携させることができるか」という視点を持ちながら、投資先の選定や協業の検討を進めています。
当社はハードウェアとAIの基本技術を有していますが、それを単独で活用するのではなく、自社の技術基盤上でさまざまな課題を解決できるアプリケーションの開発を重視しています。そのため、柔軟なアプローチを取りながら、連携可能な企業との協業の可能性を積極的に検討しています。
−投資に対してのリターンはどれぐらい求めますか?
大島氏)
私たちは、海外の企業とも連携しながら投資を行っていますが、比較的長期的な視点を持って投資を検討しています。
一般的に、日本では投資の回収期間が短く設定されることが多いですが、私たちは3年から5年程度のスパンで事業の成長を見守る方針を重視しています。そのため、短期的な成果だけでなく、中長期的な成長が期待できる企業に対しても、積極的に支援していきたいと考えています。
榎本氏)
ベンチャー企業への投資においては、「何パーセント以上のリターンを求める」という明確な基準は特に設けていません。
月足氏)
ここは完全に我々の都合で恐縮ですが、我々はSBIインベストメントの二人組合として運営しております。 そのため、管理方針がしっかり定められており、それに沿った形で進められるのが理想です。サステナブルに事業を進めるうえで、50億の資金を確保して、それを適切に運用・返済できることが、会社内としても次の連携につながる重要なポイントになります。
−投資のチケットサイズ、検討期間はどれぐらいですか?
大島氏)
投資額については、最近では、5,000万円程度の小規模な投資も増えてきています。 通常、投資の規模には一定の基準があり、大規模な案件でも10億円には達しないことが一般的です。また、検討期間については、早ければ半年程度で決定するケースもありますが、案件によってはさらに時間がかかることもあります。
榎本氏)
現在の流れとしては「協業から共創へ」と変化してきています。そのため、本当にここで事業を進めたいという強い意志があるのであれば、規模が多少大きくても問題ないと考えています。検討期間についてはケースバイケースですが、協業がうまく進み、「これは良い」と判断できれば、決定までのスピードは速くなります。逆に、慎重に調査を重ね、確信を持てないままペーパーを作成し、役員に持ち込んで説得するプロセスを踏むよりも、実際に成果を上げている事例を示す方が、はるかにスムーズに進むと考えています。
そのため、事業の可能性を示し、実際に成功事例を積み重ねることで、投資決定のスケジュールに乗りやすくなり、結果としてより多くの案件が進みやすくなるのではないかと考えています。
月足氏)
実際の投資規模についてですが、1号ファンドの際は3,000万円から3億円の範囲で投資を行っていました。2号ファンドでは投資件数を絞り、平均投資額をもう少し引き上げていきたいと考えております。検討期間については、平均で3ヶ月程度ですが、事業連携の検討が深まっている場合等によっては2ヶ月ほどで決定するケースもあります。状況に応じて柔軟に対応し、より迅速な投資判断を目指しています。
−LP出資とスタートアップへの直接投資どちらが割合として多いか、理由も合わせて教えてください
月足氏)
LP出資額については公開情報もあるかと思いますが、具体的な割合を明確にお伝えするのは難しい部分もあります。
東急不動産では街づくりの文脈でLP出資として行っていたり、事業部との深い連携を創出する上で直接投資を行っています。
一方で、ホールディングス全体としてはCVCを活用した投資も行っており、スタートアップへの直接投資というよりは、CVC投資としての比重が大きく、LP投資もCVC投資との棲み分け・連携を意識して推進しております。
榎本氏)
出資社数の視点で考えると、現在はNREGイノベーション1号投資事業有限責任組合というファンドからの出資件数が多くなっています。現在はファンドの出資期間が終了したことに伴い、直接投資に切り替えている状況です。
−スタートアップのソーシングを国内外で取り組むにあたり、自社及びVCからの紹介以外でどのような手段を利用しているか?
月足氏)
会社としては、アクセラレーターのプログラムに積極的に参加しており、具体的な例としては、Plug and Playを渋谷に誘致し、連携を進めています。これにより、国内外を問わず、スタートアップの発掘を支援してもらっています。
また、個々の担当者レベルでは、さまざまなイベントに参加し、多くの関係者とネットワークを構築することで、CVC同士の情報共有や連携も積極的に行っています。
榎本氏)
「モーニングピッチ」などのイベントにも参加し、スタートアップとの接点を増やしています。スタートアップとの出会いの方法は多様であり、公式なプログラムのほかにも、ベンチャーキャピタルからの紹介や知人・関係者を通じた情報提供など、さまざまな機会を活用しているのが現状です。
大島氏)
私自身、日本での活動を視野に入れていますが、現在は日本の事業所を設立する前の段階にあります。そのため、まずは海外のアクセラレーター・プログラムを活用し、海外企業との連携を進めることを重視しています。具体的には、海外の企業を日本に招くツアーを実施し、スタートアップの発掘や関係構築を行っています。
このような活動を通じて、一定の関係やネットワークが構築された段階で、日本の事業所を立ち上げ、さらに本格的な展開を図ることを目指しています。つまり、まずは海外での活動を軸にネットワークを構築し、その後のステップとして日本市場での展開を進めていくという、二段階の戦略を想定しています。
ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました
皆さまの会場でのご参加お待ちしております。